久々に聴いたその懐かしさに、思わず音を追いかけて角を曲がる。
目に飛び込んできたのは、白いトラックと、その窓から見え隠れするラジカセ。
竿竹屋やリサイクルショップのトラック同様、販売車から録音されたラッパ音を流していたのである。
あまり口にはしたくないが、思わず「時代は変わったな」と感じた一コマであった。
ところで、「サウンドロゴ」という言葉が確立されて久しい。
Wikiによれば
サウンドロゴ (sound logo) とは、企業が、CMなどにおいて、
自社の呼称や商品名などにメロディを付けたりあるいは音声や効果音などの音響でアピールして宣伝効果を高める、これまでになかったブランド手法である。
だそうだ。
たとえば、食品メーカーのサウンドロゴを思いつくまま書き出しても
「ナビースコ(♪ラドー ラド)」 「グ・リ・コ(♪ラソソ)」や 「チョーヤ(♪ソー ド)」など
耳になじみがあるものが多いだろう。
(ちなみにこの3曲はすべて女性コーラス)
歌詞のない、ほんの数音のみで企業をイメージ付けるサウンドロゴも多い。
例としては、シロフォンのような音で「ド#ファ#ド#ソ#」と鳴る、インテルのサウンドロゴ。
・・・歌詞がないものの場合、その音色も強く記憶に結びついているはずなので、
字面にすると非常に分かりにくい点は申し訳ない。
最近では、ファミリーマートが初音ミクを起用し、
店内に入るときの「♪ド#ラミラシミーミ シド#シミラー」
という曲に「ファミファミファミーマ ファミファミマ」という歌詞をつけたことがある。
現在は、歌詞はなくなり元に戻ったが
これ以降、入店するたびにこの歌詞を頭の中で再生してしまうのは…私だけではないことを祈りたい。
ともかく、サウンドロゴというのは身近に溢れかえっているのだ。
そう考えると、豆腐屋のラッパというのも一種のサウンドロゴと呼べるのではなかろうか。
歌詞はなく、ほんの2音のみのシンプルな音楽。
誰が聞いてもすぐに豆腐屋と分かり、頭の中には「とう〜ふ〜」と商品名が歌詞で浮かぶ。
あれはまだ、私が保育園か、小学生の頃。
夏の夕暮れ時に、ほぼ毎日聞こえていた音だ。
使い込まれた真四角の木箱を荷台に乗せた自転車にまたがり、錆びれた金属のラッパを吹きながら、
豆腐屋のおじさんが現れる。
ラッパ音が聞こえれば、母から50円と金属のボウルを渡され、
家の前で待っているおじさんのもとへ急ぐ、小さな私のお使い。
硬いツバのある帽子から見え隠れしていた白髪混じりの黒髪は、いつしか真っ白になった。
あのおじさんが来なくなったのは、幾つの時だったか。
ふとそんな幼き日の風景を思い出し、それがトラックに変わった今を思う。
それでも、きっとこの先も、あの音だけは変わらないだろう。
次にあのトラックに出会えたら、豆腐を買おう。
だけどもしできたら、その機会は、少しだけ涼んだ夏の夕暮れに訪れてほしい。
私の勝手な我侭である。